六田登 作 小学館出版
F1が舞台です。「何人たりとも俺の前は走らせねぇ」のきめ台詞は有名でしょう
主人公の赤木軍馬はトラクターを改造して公道を(無免許で)暴走し、「何人たりとも俺の前は走らせねぇ」といって前を走る車を次々追い抜いていくめちゃくちゃな運転をします。止めなければ永遠に走っていそうです。高校生なのにソープ通いをし、代金を親の付けにするような不良少年です。いわゆる愛人の子なので家での立場も悪く、ぐれるのはわかるところがあります。
そんな彼ですがなぜかけっこうすんなり免許を取得し、その後のレースでも優勝を重ね、かなり速いです。典型的な天才タイプに当たります。
F1の作品でありながら、物語の本筋はレースよりむしろ人間ドラマのほうにあります。レースにおいても何かしらの思いが絡んで走ります。レースでこうなのでレース外では昼ドラなみのドロドロさです。この作品は軍馬のレースと彼の父親の会社のドラマの2部からなっています。親父の会社は血縁者や昔なじみで構成されているので、大企業の幹部としては無能なものが多いようです。戦後の焼け野原のころに会社を設立し、ちょうどバブル景気の転換期のころが舞台です。
軍馬の父親の赤木総一郎は太平洋戦争で出兵し生きて帰ってきた帰還兵です。戦後の焼け野原から会社を起こし大企業に育て上げた有能な人物です。しかしいつまでも戦後の気持ちを持ち続ける総一郎の思いは、復興も高度成長期も終わった80年代の終わりになると受け入れられなくなり次第に孤立していきます。さらに強引な手法なども手伝って、最終的には会社を終われるように引退していきました。
しかし、彼は家族・親類に恵まれなかったと思います。親類で固めた幹部会に有能な人間はいなかったし、妻や長男にも裏切られています。総一郎は会社から去った後、よほどショックだったのかボケたのかガラリと性格が変わっています。しかし以前よりもしあわせそうに見えました。
軍馬がF1を走ったのは最後のほうで少しだけです。F1の話でF1をほとんど走っていなかったのは驚きました。甲子園にいかない野球漫画みたいです。
父親の総一郎のほうの話が長くなりましたが、実際に、走っているときよりサイドストーリーのほうが長いです。車やF1に興味のない人でも楽しめると思います。 |
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