命の尊敬(1) ―ヒポクラテスの誓い―

 紀元前460年にギリシャのコスに生まれたヒポクラテスは、非常に有名な医者であったばかりではなく、倫理・道徳観の優れた方でもありました。 彼は医学の使命は非常に責任を伴うものだと思って、医者として認めるために志願者に、のちに有名になった誓いをさせたのです。
 その誓いは次のとおりでした。
「医者のアポロ、イヒアとバイケイア、またすべての神と女神の前で、次のことを力の限り守ることを誓います。

この誓いを守るなら、幸せな生活を送り、医者として喜びを得、いつまでも褒められますように。
 しかし偽ってこの誓いを立てるなら、あるいはこれを破るなら、その反対になりますように。」

ヒポクラテス  この誓いは、まだヨーロッパとアメリカの少なくない大学で、ギリシャ神話の神々の名前を除いて、卒業する学生はしなければならない習慣があります。 その意味は、神さまにその誓いの内容を守る約束をするのです。多分、ある大学では、その誓いを行うのは習慣だけであるかも知れませんが、 明らかにその内容には、すべての医者が守らなければならない道徳が含まれています。

 すなわち、

 この誓いを読むと、ときには考えさせられます。例えば、患者の親戚の希望によって、その患者を殺す権利があると思い込む医者の場合(時には患者から迷惑を被ったり、 他の理由によって、その患者の死をいちばん望む者は親戚である場合も考えらます)、あるいは国内外にたまに起こったように、安楽死の名のもとに、仕事を省くため患者を殺した看護婦の場合もあります。
 実際、医科大学では、学問的な勉強だけではなく、「医学の倫理」あるいは法律と医学の関係なども勉強しなければなりませんが、卒業させるときに、 学生の道徳的な面を調べ、その人の倫理の判断、あるいは専門家による人格の調査などは行われません。
 勿論、新しい医者は働き始めれば、患者や他の医者に観察され、またもしいけないことをすれば、警察が調べます。
 これは確かに不道徳な行いに対するブレーキであります。しかし時には過ちを発見するのが遅すぎて、取り消しがきかないこともあります。
 ヒポクラテスが考えたように、卒業させる前に志願者の道徳的な観念を専門家によって調べることは必要であり、多分、二千年になってからはそういった制度が決められるかも知れません。
(H03.05.26 三位一体の主日)

ヒポクラテス  古代ギリシャの医者。迷信を排して、観察や経験を重んじ、当時の医術を集大成。医学の祖、あるいは医術の父と称せられる。
ヒポクラテスの誓い  ヒポクラテスに由来するといわれる医師の倫理を述べた誓文。古今を通じて、医師のモラルの最高の指針とされる(広辞苑より)。
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