掲載した詩は、昭和40年代の中ごろ、学生時代に作ったものです。
ひとつひとつの詩に現実の体験が隠れています。
詩は、あふれる情動がないと書けない・・・老いて、つくづく思うのです。
少年の身を灼きし 初恋情火の
七年の快癒あるにより
いままた その余燼を貫きて
赫々と燃えあがる。
天日直射せる一日(いちじつ)
眉美(は)しき妹と遊びたりき。
緑翆の海、南国仏陀の夢幻...
あはれ、妹よ、
喜々たる群衆と殷賑のさなかにありて
なになれば 憂愁を捨てたまはざりし。
汝(な)が笑みによりて わがこころ嬉しく、
なが楽しまざるにより
われ みずからを責むに疲れたり。
海浜に出る。
烈風の午后である。
人気なき午后である。
照耀として陽の出づる午后である。
われらの歩む土はやはらかい。
わたしはいま おまへのことを思ってゐるのだ。
ああ女よ、
後れ毛をただしつつ私を窺ってはならない。
私の秘めやかな想ひを読んではならない。
爛然と陽の映える真夏の海は
われらを妖しい死へと誘ふ。
蒼白きものながれ
わが躰(からだ)を腐食せしめん。
ながれゆけり 蒼白きもの、
したたり落ち、晶結して玻璃(はり)と変じ
また溶解せり。
蒼白きものながれ
ながれゆけり 蒼白きもの。
それいつときにや
蒼天に癩者は崩れ落ちたり。
蒼白きものながれ
ながれ去れり 蒼白きもの。
レコオドを回す。
傷みたる針より
わびしい音ながれる。
哀切のひびき
哀切のひびき。
ああ けふもまた蒼天に月が出て、
ガラス窓に、憔悴せる人の影あり。
レコオドを回す
傷みたる針より
わびしい音ながれる。
哀切のひびき
哀切のひびき。
森林に水ながれ、
さうさうと水ながれ
みどり葉に光は散る。
ながれゆく水をかへす術なく
虚空千里を貫きてその声むなしく
山野にこだまする木霊(ニムフ)の嘆きぞあさましや。
ああ すべもなく日は来たりて
この身をいかにせん。
ただに彳(た)ちて はや水に入ることを得じ。
森林に水ながれ
さうさうと水ながれ
ながれゆく水はかくも明らかなれど
しめりたるエゝテルに
玻璃の目は曇りてかなし。
哀惜に耐へんと
ひとり山路を行けば
陽は赫として中天にあるに、
陽光の 雪降るごとく落ち来たる。
大島の空に見たる
星の夥しきを懐(おも)ふにあらず。
われら二人語らいしとき
君が顔の
かがやけるを おもふ