日本ではこの歌劇を『椿姫』と呼ぶことが多い。しかし、イタリア語原題のラ・トラヴィアータは「道を誤った女」という意味である。この歌劇の台本は、デュマ・フィスの小説『椿を持った貴婦人』を基にしている。これが日本では『椿姫』と訳されたことによって、オペラの題名も『椿姫』と呼ばれるようになった。デュマ・フィスは小デュマとも呼ばれている。『三銃士』を書いたデュマの息子である。
この傑作オペラも、初演はこけている。準備期間が短かったうえに、結核のためにやせているはずの主役が、丸々と太っていたり、相手役が風邪をひいていて声が出ないといった要因が重なったようだ。娼婦や結核という題材もまずかったかもしれない。何より、イタリア人にはなじみのないパリが舞台となっていることもあったようだ。一年後の再演では好評を博し、もっとも人気の高いオペラの一つとなっている。
第1幕の「乾杯の歌」や「ああ、そはかの人か」「花からは花へ」などは、1度は聞いたことがあるはずである。たつくの音楽辞典にも似たようなことを書いたが、ヴェルディは、比較的演奏技術の低い寄せ集めの楽団員たちにでも演奏できて、しかも音楽的に完成度の高いオペラを書いている。そのため、地方の劇場でも演奏される機会が多かった。上演回数が多いものほど人気が上がって行くものである。
カルロス・クライバー指揮のバイエルン国立管弦楽団をバックに、コトルバスがヴィオレッタを歌っているものを推薦しておく。音声のみである。伝説のマリア・カラスの歌声を聴きたければ、ヴィスコンティ演出でのライブ録音盤がいい。映像をDVDで観ながら聴きたい方は、CDより安いくらいのDVDも出ている。
© February 8th, 2010 ちゐく たつく