第10番が未完成で終わっているので、マーラーの最後の完成した交響曲ということになる。第8番の後、マーラーは『大地の歌』を作曲している。中国の唐の詩人、李白や孟浩然の詩のドイツ語訳を歌わせている交響曲で、実質的には第9番であった。しかし、ベートーヴェンやブルックナーが第9番を書いて亡くなっていることから、第9番は作りたくなかったようだ。そのため、『大地の歌』には番号がつけられていない。その後、声楽なしの交響曲を作曲し、番号をつけざるを得なかったのではないか。その作品。
ベートーヴェンの第9の影響を受けてか、マーラーは交響曲に声楽を用いることが多い。もちろん第9はすばらしい作品だが、たつくはマーラーの交響曲では歌なしのものが好きである。声楽なしの第1番・第5番は、本館の方で紹介した。マーラーの9番も声楽が入っていない。
マーラーの9番は、好きになれない人も多いと思う。しかし、マーラーという作曲家を知る上では、欠かせない作品であることは間違いない。交響曲の最高傑作と評する人もいる。
人間は清く正しく美しく、正々堂々と生きなければならない。そう生きられれば、どんなにいいことだろう。この交響曲も伝統的な4楽章構成で、第1楽章はソナタ形式。ベートーヴェン以来の正統な交響曲の形式を踏襲している。しかし、迷わずにまっすぐ進むのは、マーラーらしくない。随所で不満を漏らし、八つ当たりし、落ち込む。予測不能の行動の組み合わせ。調和をとっているのか、いないのか。
第2楽章はレントラーという舞曲音楽形式を利用。3楽章のロンドでは、やんちゃ坊主がふざけて暴れまわっている。4楽章はアダージョ。誰もいない森の中の静かな湖の美しさが心に沁みる。最後は楽譜に書き込みがあるように、死に絶えるように(ersterbend)終わる。
たつくは、バルビローリがベルリンフィルを振った1964年の録音のものを持っている。生涯でただ1度、ベルリンフィルを振って涙を流して喜んだというバーンスタイン指揮の演奏もある。指揮をしながら思わず声を出しているバースタインの声入り。評判となったインバル指揮のフランクフルト放送響のものは、未完成に終わった10番のアダージョも聴けてお買い得。初演を行ったマーラーの愛弟子ワルター指揮の録音も残っている。最後になったが、ジュリーニ指揮のシカゴ交響楽団の録音も名盤の呼び声が高い。
© January 27th, 2010 ちゐく たつく